「急ぎの電話?」
娘にそう訊かれるそうだ。
電話が遠くに離れていった。
携帯しているにも関わらず。
そう感じている高齢者は少なくない。
たしかに電話をかけにくい時代だ。
相手にも都合がある。
それは理解できる。
世の中そんなに大した都合あるか?
親からの電話以上に?
小坂さんは76歳男性。
娘が二度目の乳がんの手術をした。
病状は安定しているはず。
しかし、娘からメールが来ない。
以前はしょっちゅうメールが来た。
どうでもいい内容のメールが。
病状が芳しくないのかな?
気遣いをする小坂さん。
電話をかける勇気はない。
ときに文章は重くなる。
文面にすると見直すことになる。
それが術後の娘さんにはキツイのでは?
自分の愚痴を見直したくないのでは?
医師としてそんな風に説明した。
小坂さんは納得したようだった。
良くも悪くも言いっ放せる。
それが話し言葉の利点だ。
メールは時空両方ズレる。
「ちょっと声が聴きたかってん」
親子でそんな余裕も持てない。
そんな文明はいらない。