悩まない決意

内山さんは70歳の女性。
高血圧と高脂血症の定期受診。
今年初めての受診だ。

「今年もよろしくお願いします」
少し声が変だ。
本人いわく、風邪の治りかけ。

「薬ほしい?」
訊いてみた。

数日前から風邪の兆候があった。
自力で治すか受診するか悩んだ。
悩んだ結果、
自力で治すことにした。

結局、時間がかかり、今に至る。

つまり2週間ほどかかっている。

「どちらがいいんでしょうか?」
「何と何?」
「早めの受診か、自力で治すか?」
「どっちでもええと思いますよ。
悩んでる時間だけが不要ですね」


風邪ごとき…
自力で治そうとするのは当然だ。
でも医者に来たっていい。
たまにはこじらすこともある。
でも悩んでる時間がもったいない。

意外と人間はこんな選択に貴重な
時間を使っているのかもしれない。


有限な人生時間。
一秒も悩まないと心に決めた方がいい。

一蓮托生

「お父さん最近脚がむくんでるのよ」
文江さんは開口一番、夫の話だ。
文江さんは高血圧で通院している。

「お父さんの話ね?」
「そう。大丈夫よね?」
「診ないと何とも言えません」
「むくみ」の鑑別は慎重さが必要だ。

文江さんの夫は某大学病院に通っている。
うちには風邪、下痢でたまに来院する。
たしか糖尿病だったはずだ。

1年以上診察していない。

「診ずに軽々しく大丈夫は言えんのよ」
「連れてきた方がいいよね?」

「はい」

大学病院ではきちんと診てくれない。
そんな愚痴を散々こぼした。

「とにかく連れてきて。それで調子どう?」
「最近腰が痛くて」
「文江さんが?」

「いや、お父さんが」

一瞬イラっとした…

ふと自分の苦い経験を思い出した。
予備校時代に好きな数学の講師がいた。
なぜか物理の質問ばかりしてしまった。
物理の講師より説明がうまかったからだ。
毎度毎度物理の質問をしていたある日。
講師のイラっとした顔を見逃さなかった。
その後、質問自体しなくなった…

夫の病状が妻の病状なのだろう。
この夫婦は一心同体、一蓮托生なのだ。
自分のことより夫のことなのだ。
外来で家族の話ばかりする。
そんな患者さんは少なくない。
文江さんの病状は極めて安定している。
来週月曜日夫を外来に連れてくる。