裸のつきあい


佐藤さん67歳は大工だ。
当院には血圧でかかっている。
行きつけの銭湯でよく会う。

最近ご無沙汰だった。
サウナを休止していたからだ。

「サウナ始まったよ」
「じゃあ今晩行こうかな」


こんな会話から始まる外来だ。
銭湯で文字通り「無防備」を晒して
いるから、診察し始めるとき、
お互い何となく照れる。

佐藤さんは銭湯で顔見知りも多く、
待合いでプチ飲み会をしている。

「何年通っているんですか?」
「もう30年以上」
「それはスゴイ!」


毎日デカイ風呂に入り続ける。
ある意味「贅沢」なことだ。

佐藤さんは気づいたことがある。
日本人の体型が変わった。
「メタボ」が増えたそうだ。
以前の日本人にはいなかった
タイプの肥満の仕方だそうだ。


一緒にサウナに入ると酸欠になるから、
そういう人が入るとサウナから出る。
肥満しているから銭湯に来るのかも
しれないが・・・

風呂で高齢者が倒れることもしばしば。
何度も救出しているそうだ。
本職以外の「フィールドワーク」だ。

職人としても信頼されているから、
コロナ禍でもビクともしなかった。

30年間、男の裸を見続けてきた。
本職の医者もタジタジだ。

おカネのチカラ

蕎麦屋で働く佐藤さん47歳。
糖尿病と高脂血症と高血圧。
生活習慣病のデパートだ。


見た目通り、人が良くて
のんびりしている。
友人の蕎麦屋を手伝っている。
深夜営業が中心だ。
断りきれないのだ。

両親も当院の患者さんなので、
息子を任されている手前もある。
余計、倒れられては困る。

受診も滞りがちだ。
病識があまりにも乏しい。
前回、心がける習慣を
紙に書いて手渡した。

「これを家の冷蔵庫に貼って
口に出して、毎日読み上げて!」
「はい、わかりました」

返事は良い…

用を足しにトイレに行ったとき、
斎藤さんに手渡した紙の忘れ物を
見つけてガッカリした。

今回相変わらずの風貌で外来受診。
「口ぐせ唱えてる?」
と訊くと、
「はい、毎日言ってます」
と嘘をつく。

今回はいつもに増して、
「のれんに腕押し」だ。
訊いてみた。

「何かええことあったん?」
「有馬とったんです」

競馬の有馬記念だ。
「なんぼ?」
「50万ほど勝ったんですよ!
母ちゃんに半分取られたけど」


そりゃあご機嫌なはずだ。
でも「あっ」で無くなるだろう…

茅野さんは76歳女性。
眼の手術がうまくいかなかった。
外来受診の度に愚痴る。

今回も同じように愚痴るだろう。
先手を打って、眼科医の替え方、
受診の仕方を色々と指南した。

これまた何となく「ぬかに釘」だ。
いつもよりご機嫌なのだ。

「何かええことあったん?」
「宝くじ当たったの」
「なんぼ?」
「70万円!」


病は現金で消える!
次の書籍のタイトルにしようか?

卒中ギタリスト

小川さんは58歳男性。
糖尿病と高血圧の持病がある。
会社を経営していてストレスは多い。
酒とタバコもなかなか止められない。

先日小川さんの母親が急死した。
母の葬儀中に呂律が回らなくなった。
近所で受診したが問題なしと帰宅。

翌日当院受診。
手足の麻痺はなく、呂律異常も軽度。
だが、違和感があるので精査した。
やはり脳梗塞があった。

一週間後、退院報告に来てくれた。
ほぼ元通りの小川さんだった。
「助かりました」
「お母ちゃん一人で逝くの
寂しかったんですかね?」

苦笑いする小川さん。

小川さんの趣味はギター。
外来ではソウルミュージックの
オタクトークに花が咲く。
やはり若干いつものキレがない。
母の死と卒中のダブルショックか…

「ギターは?」
「全然問題なく弾けるんですよ」
「よかったあ!」
「実は一本買っちゃったんですよ!」
「ナイス!」


この辺がミュージシャンの良いところだ。
「心機一転」できる!
呂律が回らない?
ギターでしゃべればいい!