食い意地

早い話が
「栄養学」を信頼しているが、
信用していない。


食事療法が必要な患者さんには
栄養学に基づいて指導する。
完全に信用していないのは、
例外がいくらでもあるからだ。

肉ばっかり食べて元気な高齢者。
菜食主義のインド人に糖尿病や
高脂血症が増え続けている。
水を飲んでも太るという人もいる。
一食しか摂らず何年も過ごす人もいる。


健康長寿の高齢者に日々の食生活を
聴くようにしている。
結論から言えば、ホントにマチマチだ。
傾向として言えるのは、
「好きなモノを少量」
食っている感じだ。

食事制限という言葉に代表される
ストレスがないのだけは共通だ。

健康だから食事制限は不要なので
鶏が先か卵が先か、なのだが…

中学生の頃から診察している
大原さんは管理栄養士として
病院で働いている。
今でもたまに当院に受診する。

上記のような私見を述べ、意見を
求めるが、あまり明快な答えは
もらえない。

「栄養学は人類のものやけど
食いもんは個別やで」

というような医療従事者失格な
意見を言い、苦笑いされる。

大原さんは非常に痩せている。
人並み以上に食べ、甘い物に目がない。
いわゆる「痩せの大食い」。
彼女自体が栄養学の矛盾なのだが、
もちろん説明不能だ…

悩まない決意

内山さんは70歳の女性。
高血圧と高脂血症の定期受診。
今年初めての受診だ。

「今年もよろしくお願いします」
少し声が変だ。
本人いわく、風邪の治りかけ。

「薬ほしい?」
訊いてみた。

数日前から風邪の兆候があった。
自力で治すか受診するか悩んだ。
悩んだ結果、
自力で治すことにした。

結局、時間がかかり、今に至る。

つまり2週間ほどかかっている。

「どちらがいいんでしょうか?」
「何と何?」
「早めの受診か、自力で治すか?」
「どっちでもええと思いますよ。
悩んでる時間だけが不要ですね」


風邪ごとき…
自力で治そうとするのは当然だ。
でも医者に来たっていい。
たまにはこじらすこともある。
でも悩んでる時間がもったいない。

意外と人間はこんな選択に貴重な
時間を使っているのかもしれない。


有限な人生時間。
一秒も悩まないと心に決めた方がいい。

おカネのチカラ

蕎麦屋で働く佐藤さん47歳。
糖尿病と高脂血症と高血圧。
生活習慣病のデパートだ。


見た目通り、人が良くて
のんびりしている。
友人の蕎麦屋を手伝っている。
深夜営業が中心だ。
断りきれないのだ。

両親も当院の患者さんなので、
息子を任されている手前もある。
余計、倒れられては困る。

受診も滞りがちだ。
病識があまりにも乏しい。
前回、心がける習慣を
紙に書いて手渡した。

「これを家の冷蔵庫に貼って
口に出して、毎日読み上げて!」
「はい、わかりました」

返事は良い…

用を足しにトイレに行ったとき、
斎藤さんに手渡した紙の忘れ物を
見つけてガッカリした。

今回相変わらずの風貌で外来受診。
「口ぐせ唱えてる?」
と訊くと、
「はい、毎日言ってます」
と嘘をつく。

今回はいつもに増して、
「のれんに腕押し」だ。
訊いてみた。

「何かええことあったん?」
「有馬とったんです」

競馬の有馬記念だ。
「なんぼ?」
「50万ほど勝ったんですよ!
母ちゃんに半分取られたけど」


そりゃあご機嫌なはずだ。
でも「あっ」で無くなるだろう…

茅野さんは76歳女性。
眼の手術がうまくいかなかった。
外来受診の度に愚痴る。

今回も同じように愚痴るだろう。
先手を打って、眼科医の替え方、
受診の仕方を色々と指南した。

これまた何となく「ぬかに釘」だ。
いつもよりご機嫌なのだ。

「何かええことあったん?」
「宝くじ当たったの」
「なんぼ?」
「70万円!」


病は現金で消える!
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