血は水よりも濃い

浦川さんは74歳女性。
昨年から検診を受け始めた。

「悪い所だらけだと思います。
腹を決めてました」

結果は”特A”だった。

ちなみに浦川さんの母親は
98歳で投薬なし、認知症なし。
遺伝的要素も強そうだ。

これまでの人生、薬もほとんど
飲んだことがないそうだ。

「昨年先生にかけられた言葉を
支えに一年間生きられました」

覚えていない…
どうも、ホメたようだ。

「血を抜くのは最小限でお願いします」
「血液ってどれだけあるか知ってる?」
「いえ、知りません」
「大体、体重の8%ほどなんですよ。
体重40kgだから3リットルちょいね。
検診で抜くのは5cc弱。誤差やね」

浦川さんの検診結果は今年も
”特A”だった。

神経質ゆえ危険に挑戦しない。
だからきっと長生きするだろう。
楽しいかどうかは知らないが…

雑談力の作り方

早い話が
もはや言葉がいらない二人でも
会話はあった方がいい
ということだ。

「最近鼻水が止まったんです」
佐藤さんは76歳の女性。

夫の認知症が進み、施設に入った。
いつも床で寝ていた佐藤さんは、
夫のベッドで寝るようになった。
途端に鼻水が止まった。

佐藤さんの家は古い家屋だ。
低い所にアレルギーの原因物質が
うようよしているのかもしれない。

「旦那に対するアレルギーでは?」
意地悪に訊いてみると、
「そうかもしれないですね」
と佐藤さんは笑いながら答えた。

施設では話し相手が少ない。
夫の認知症はどんどん進んでいる。
最近、自分の名前もあやしいらしい。

「話のネタがなくて困るんです」

以前、写真を持っていくよう助言した。
佐藤さんは忠実に守っている。
二人で旅行した写真を見ながら、
当時を思い出して会話するそうだ。

でも、すぐに話しが尽きてしまう。

「僕のこと憶えてくれてるかな?
会いたいって言っておいて下さい」
「今日は先生のとこに行く
って主人にも言ってあります」
とのこと。

診療のあと夫の所へ行く佐藤さん。
会話のネタを仕込んでおいた。
鼻水が止まったことを報告するよう
助言した。

「あなたがいなくなったお陰よ。
ありがとう」

って感謝を伝えるように、と。

少々ブラックかな…
感謝だからよし、としておこう。

禁煙供養

”喫煙はCOPD(慢性閉塞性肺疾患)
の原因です。年間~人亡くなります”

赤坂の喫煙所で見つけたポスターだ。

このポスターは絶対に身体に悪い。

タバコの有害性が上昇する。

佐藤さん(60歳女性)は、昨年

同居していた兄を亡くした。

タバコと酒をこよなく愛する兄。
両親を早くに亡くした佐藤さん。
お兄さんが親代わりだったそうだ。

最愛の兄の死で悲嘆にくれていた。
しばらく眠れない日が続いた。

睡眠導入剤を処方してあげた。

半年ぶりに来院した佐藤さん。
「眠剤頑張って止めてます」

と誇らしげに言った。

「飲めばいいじゃん」
「認知症になりたくないし」
「何で?」
「誰も面倒みてくれないもん!」
「誰にも面倒かけないのなら、
認知症でもいいんじゃないの?」

「そっかあ!」

眠剤を飲まなくても眠れる。
だから、眠剤はいらない。
ヘトヘトになって眠りに落ちる。

だから、眠剤はいらない。

それで行こう、そう告げた。

人に迷惑?面倒をかける?
そんなことは動機にはならない。

そんな人は最初から薬を飲まない。

禁煙も続いているそうだ。
本人いわく「奇跡」だ。
供養の気持ちで禁煙を継続している。

素晴らしい。

「兄さんの分まで酒とタバコ
やってあげたら?」

つい天邪鬼をしてしまう。

さすがに
「そっかあ!」

とはならない…

身内の死は「有限」を教えてくれる。
残りの人生において、酒とタバコが

無駄だと思うなら止めればいい。

病気にならないため?
そんな消極的な理由は動機にならない。

そんな人は最初から吸わない。

新たな一歩を踏み出す。

そのために古い習慣を捨てるのだ。

兄の分まで今生を楽しもう!
後悔なきよう。