アドリブセラピー

「ステージでは練習したことを
すべて忘れろ!」
チャーリー・パーカー

めずらしく平日に風邪を引いた。
合羽を着て小一時間走った。
一向に汗が出ない。
風呂に入ってもイマイチ汗が出ない。

ダルさだけが増し、そのまま早く寝た。

たっぷり寝たが、シャキっとしない。
喉も痛いし、寒気もする。
少し朦朧とするが、午前は往診だ。
今朝は15軒訪問する。

首を長くして待っているはず…

ありがたい。

患者さんがみな自分より軽症だ!

首から頭にかけてとても重い。
頭が働かない。アホになっている。
もはや「反射」で診療している。

ところが…

割といい感じだ。
診療が実にスムーズなのだ。

笑いも多い。

朦朧とするのも悪くないぞ!
自然体な気がする。
朦朧としていても目の前の
ことには集中できる。

診療中にゴチャゴチャ考えては
いけないのかもしれない。
考える仕事は既に済ませておく。

準備段階で。

診療も演奏と同じなのか!

これって悟り?

おめでたい医者だ。
診療の録画は存在しない。

それだけが救いだ。

体調管理はきちんとね、

興奮しないでください

北島さんは75歳女性。
夫も当院の患者さんだ。

「最近お父さんが鼻血が出るの」

と夫の現況を相談してきた。

「奥さんに興奮してんじゃない?」
「いくつだと思ってるのよ!」
と叱られた。

そして打(ぶ)たれた。

鼻血のようすを詳しく聴いた。

心配するほどの状況ではないと説明。

高血圧などで止まりにくいことは
あるが、基本的に圧迫で止まる。

10分間続けて圧迫するのが大事。

 

一人の料金で二人分の診療をする。

親切な主治医だ。

そして診療終了後、恒例の握手。

北島さんは
「手温かいでしょ?」
と訊いてきたので、
「興奮してんじゃない?」

もう一発打たれた。

親切な主治医だ。

手と手で通じ合う

診療終了時に患者さんと握手をする。
毎回するわけではない。
握手が苦手な人もいるので相手を選ぶ。

情報収集の側面もある。
「握力が強い人は認知症になりにくい」
という研究報告を目にしたことがある。
結論から言えば
「そうとは限らない」

である。

手が温かすぎる人は、東洋医学的には
「お血」とされている。
「血」の停滞があるかもしれない。
湿り過ぎている手は自律神経異常かも?
握り方もさまざまあって面白い。

必要以上に力自慢してくる人もいる。

指摘してくれる人もいる。
「先生手が温かいわね。心が温かいのね」
とホメてくれる。
逆に、手が冷たいと感じると
「手が冷たい人は心が温かいのよね」

これまたホメてくれる。

真木さんは94歳の独居女性。
在宅診療をしている。
診療も終わり、立ち去ろうとする。
握手は恒例になっている儀式だ。
「では再来週、また来ます」
なかなか手を放してくれない。
握手をしたままの恰好で玄関まで移動。
気づかれない程度に振り払う。
「ゆっくりしていきなよ」
「次の患者さんもおるんよ」

名残惜しいが、立ち去る。

移動の車内で右手を見て驚いた。
爪痕がくっきりついている…
寂しさと執念…
握手の情報量をあなどってはいけない。