かまってちゃんのかまいかた

松本さんは85歳の女性。
声質で好不調がはっきりわかる。
つまり「かまってちゃん」だ。

悲しそうな声で訴える。
「最近、足が重いんですよ」
「足が軽くなりたいの?」
「はい、軽くなりたいです」
「あの世へ行ったら軽くなるよ
多くの幽霊は足がないじゃない」

そして主治医は太ももを叩かれる。

松本さんは今週末、田町へ行くそうだ。
たしか息子の職場も田町だったはず。
「せっかくだから会えば?」
「ダメよ、息子はペーペーなんだから!」
「ペーペーやから会えるじゃない?
安倍首相だと会えないでしょ」

そして再び太ももを叩かれる。

主治医の太ももを2度叩いた。
悪名高い「3分診療」の間に…
退室する足取りは軽かった…

ちょっと声が聴きたくてさあ

「急ぎの電話?」
娘にそう訊かれるそうだ。

電話が遠くに離れていった。
携帯しているにも関わらず。

そう感じている高齢者は少なくない。

たしかに電話をかけにくい時代だ。
相手にも都合がある。
それは理解できる。
世の中そんなに大した都合あるか?

親からの電話以上に?

小坂さんは76歳男性。
娘が二度目の乳がんの手術をした。
病状は安定しているはず。
しかし、娘からメールが来ない。
以前はしょっちゅうメールが来た。
どうでもいい内容のメールが。
病状が芳しくないのかな?
気遣いをする小坂さん。

電話をかける勇気はない。

ときに文章は重くなる。
文面にすると見直すことになる。
それが術後の娘さんにはキツイのでは?
自分の愚痴を見直したくないのでは?
医師としてそんな風に説明した。

小坂さんは納得したようだった。

良くも悪くも言いっ放せる。
それが話し言葉の利点だ。

メールは時空両方ズレる。

「ちょっと声が聴きたかってん」
親子でそんな余裕も持てない。

そんな文明はいらない。

 

永井荷風になりたくて

『荷風と私の銀座百年』

「主人は荷風のように生きたかったのよ」
妻がポツリ。

「荷風のように?」

増岡さんは口を開いた。
「生涯独身でさ」
「無頼の人ですね」
「オレなんて後悔ばっかりだよ」

と妻の前で憎まれ口をたたく。

「エエとこの子でしょ?」

「そう。官僚の息子だよ」

当時の著名人は家柄が良い。
漱石も三島もスゴイ一族だ。
今の日本も変わらないか…
血統や出のアドバンテージは大きい。

そんな話で盛り上がった。

すると妻が
「この人は自転車屋の息子よ」

「大出世じゃないですか!」

官僚なんてしょせん中間管理職。
モノを作り、直す方がエライ!
いや、いい表現ではなかったな。
全国の官僚、自転車屋のみなさん。
いつもありがとう。