マスクした方がいいんだろうけど・・・


「みんなマスクでしょ?聞こえないのよね」
井田さん(72歳女性)は難聴だ。

井田さんの難聴は「感音性難聴」
と言って、治療が難しいタイプだ。
新型コロナウイルスの弊害は
こんな形でも現れている。

その上、花粉症のマスクだ。

自分は診療中にマスクをつけない。

理由は3つある。
耳が悪い患者さんが多いこと。
マスクは発声にも聴き取りにも邪魔だ。

2つ目は、顔を覚えてほしいから。
「先生の顔が浮かんだのよ」
生活習慣改善に少しは役立つようだ。
「あの先生だったらどうする?」
自分にも、いまだに頭に浮かぶ
研修医時代の指導医がいる。

現段階では、マスクの感染予防効果は薄い
というデータを支持している。
それが3つ目の理由だ。
もちろん感染源になるのはまずいので
自分に症状があるときはマスクする。

将来、邪魔にならずに、有効なマスクが
出てくれば態度を変えるかもしれない。
今は、しないメリットが上回っている。
賛否両論あるのは承知の上だ。

マスクをする習慣のある人は、せめて
大きな声ではっきり喋ってあげてほしい。

しっかり息を吐けば、感染予防にもなる
かもしれない。
エエ声になり、歌が上手くなるかも。

そうなれば、「怪我の功名」だ。
いや、「棚からぼたもち」か・・・

病人の定義

「持病のある高齢者だけでしょ、
心配しないといけないのは?」

岩坂さんは、話題の新型ウイルスに
触れ、そう言った。

米屋を経営している岩坂さんは
75歳の男性だ。

お正月は、他では絶対に食べられない
餅を用意して孫たちを迎える。
孫もそれを楽しみにしている。

糖尿病でインスリン治療の岩坂さん。
客観的には、しっかり
「持病持ちの高齢者」
なのだが…
ご本人の気持ちは現役バリバリだ。

下町の高齢者は自営業が多い。
生涯現役という人も少なくない。
だから気持ちが若い。

「ホントに病気の人多いわよねえ。
どこも悪くないのが申し訳ないわ」

という高橋さんは生活習慣病の宝庫だ。
では何しに診療所に来ているのか?
雑談だけが目的のつもりなのか?

自分を「病気」と思わない。
自分を「高齢者」と思わない。
「自分は死ぬまで健康だった」
と最期を迎える。


良いことなのだろう…

おカネのチカラ

蕎麦屋で働く佐藤さん47歳。
糖尿病と高脂血症と高血圧。
生活習慣病のデパートだ。


見た目通り、人が良くて
のんびりしている。
友人の蕎麦屋を手伝っている。
深夜営業が中心だ。
断りきれないのだ。

両親も当院の患者さんなので、
息子を任されている手前もある。
余計、倒れられては困る。

受診も滞りがちだ。
病識があまりにも乏しい。
前回、心がける習慣を
紙に書いて手渡した。

「これを家の冷蔵庫に貼って
口に出して、毎日読み上げて!」
「はい、わかりました」

返事は良い…

用を足しにトイレに行ったとき、
斎藤さんに手渡した紙の忘れ物を
見つけてガッカリした。

今回相変わらずの風貌で外来受診。
「口ぐせ唱えてる?」
と訊くと、
「はい、毎日言ってます」
と嘘をつく。

今回はいつもに増して、
「のれんに腕押し」だ。
訊いてみた。

「何かええことあったん?」
「有馬とったんです」

競馬の有馬記念だ。
「なんぼ?」
「50万ほど勝ったんですよ!
母ちゃんに半分取られたけど」


そりゃあご機嫌なはずだ。
でも「あっ」で無くなるだろう…

茅野さんは76歳女性。
眼の手術がうまくいかなかった。
外来受診の度に愚痴る。

今回も同じように愚痴るだろう。
先手を打って、眼科医の替え方、
受診の仕方を色々と指南した。

これまた何となく「ぬかに釘」だ。
いつもよりご機嫌なのだ。

「何かええことあったん?」
「宝くじ当たったの」
「なんぼ?」
「70万円!」


病は現金で消える!
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