エンディング・ノート

年に数回、健康講座を開いている。
患者さんからの要望だ。

インフルエンザ、脳卒中、認知症…
大抵ベタなテーマだ。

ときに
ヒアリ、デング熱、放射能被爆…
話題になっているトピックを
要望されることもある。

今回は
『エンディングノート』
について話すことになった。

在宅診療、看取りをしている
視点で話そうと思う。

エンディングノート的発想には
基本的に賛成だ。
「死」「終焉」から始める。
大切だと考えているからだ。


高齢者だけに必要なのではない。
若い人にこそ大切だと思う。

小島さん(79歳男性)は70歳の
ときにエンディングノートを書いた。
いつも誇らしげに話している。
他の人にも勧めているそうだ。

昨年他界した富士さんにも
書かせていた。
お陰で遺族は助かったそうだ。

今回、小島さんに依頼した。
「お手本としてみんなに
見せてもらえませんか?」

喜んで承諾してくれた。

見せられる内容かどうかは
これから吟味しないといけないが…

昨日参考資料集めに三省堂へ。
エンディングノートコーナーだけで
凄い量だった。

ほぼすべてに目を通した。

そんなに変わらない内容だった。
「のこされた人のために」
その視点が主だった。
確かにそれは大切なのだが…

ある患者さんから今回のテーマに
「独居の人には意味ないわね」
と軽く苦情が出た。
下町ははっきり言ってくれる。

「自身の残された人生を輝かせる」
その視点で話せるといいな。
そう考えている。

(笑)

小山さんは85歳独居女性。
家の中は「江戸」だらけ。
提灯や江戸家具、歌舞伎や相撲文字。
亡き夫の趣味と思しき任侠風味…

それに加えて、文化とは異なる
不思議な「明るさ」がある。
独居特有の「寂しさ」が薄い。
なぜだろう?

江戸の色彩は概してシックだ。
(花魁文化は別…)
色も「原色」という感じではない。
小山さんは倹約家なので電気も暗い。

理由がわかった。
そこら中に
「ユーモア」「笑」
という字があったのだ!


デイサービスで書いた作品
「いつも心にユーモアを」
「笑う門には福来たる」

壁にたくさん貼ってある。

「笑」「ユーモア」という字の持つ
ポテンシャルはあなどれない。

嘘だと思うなら「笑」という字を
じっと見つめてみてほしい。
笑けてくるでしょう?

笑福亭笑瓶はラッキーだ!
「笑」が二個も入っている!
強力な芸名だ。

「診療所」も「診療笑」にしたら
楽しいかも…

死にたくても死ねない

在宅患者の真木さん(94歳)は
6年前に娘を亡くし独居生活。

真木さんの口ぐせは「愚痴」中心だ。
これは娘の生前から変わらない。
往診する度に
「早く死にたい」

を聞かされる。

「早くあの子の所に行きたいよ」
「あっちでも面倒見さされるの
勘弁してくれってゆうてるよ」
「えっ?何て言ったの?あら?

補聴器してなかったわ」

終始こんな具合だ。

「大丈夫大したことゆうてないから」
「どうせ悪口でしょ」
「ホメてんですよ」

隣で師長が笑いをこらえている。

娘の仏壇に供え物は欠かさない。
夜中に娘が食べてくれるそうだ。

(犯人はおそらく生きている哺乳類だ)

ヘルパーが代わる度にモノを取られる。

(のちに必ず別の場所で見つかる)

呆けてるわけではない。
色んなファンタジーが混ざり合う。

真木さんはまだまだ逞しく生き延びる。

医療には「お約束」が必要なのだ。
吉本新喜劇で育っててよかった。