「お父さん最近脚がむくんでるのよ」
文江さんは開口一番、夫の話だ。
文江さんは高血圧で通院している。
「お父さんの話ね?」
「そう。大丈夫よね?」
「診ないと何とも言えません」
「むくみ」の鑑別は慎重さが必要だ。
「むくみ」の鑑別は慎重さが必要だ。
文江さんの夫は某大学病院に通っている。
うちには風邪、下痢でたまに来院する。
たしか糖尿病だったはずだ。
1年以上診察していない。
「診ずに軽々しく大丈夫は言えんのよ」
「連れてきた方がいいよね?」
「はい」
大学病院ではきちんと診てくれない。
そんな愚痴を散々こぼした。
「とにかく連れてきて。それで調子どう?」
「最近腰が痛くて」
「文江さんが?」
「いや、お父さんが」
一瞬イラっとした…
ふと自分の苦い経験を思い出した。
予備校時代に好きな数学の講師がいた。
なぜか物理の質問ばかりしてしまった。
物理の講師より説明がうまかったからだ。
毎度毎度物理の質問をしていたある日。
講師のイラっとした顔を見逃さなかった。
その後、質問自体しなくなった…
夫の病状が妻の病状なのだろう。
この夫婦は一心同体、一蓮托生なのだ。
自分のことより夫のことなのだ。
外来で家族の話ばかりする。
そんな患者さんは少なくない。
外来で家族の話ばかりする。
そんな患者さんは少なくない。
文江さんの病状は極めて安定している。
来週月曜日夫を外来に連れてくる。