モテますか?


國武さん72歳は直腸がん術後だ。
無事5年経過した。
昨年、妻がステージIVの食道がん
から5年経過し、放免された。
娘は乳がんの手術から4年経過した。

つまり、妻、本人、娘と
毎年がんを発症し、手術した。

おせっかいな人は
「お祓いした方がいいんじゃない?」
などと言うかもしれない。

しかし、國武家は持ち前の明るさで
ずっとアッケラカンとしていた。

アッケラカン主治医が舌を巻くほど。
性格も治癒を手伝った可能性はある。

最も軽症な娘も、間違いなく
来年を無事に迎えるだろう。

國武さんのお父さんは当院の
在宅診療患者だった。
呉服屋をしていて、粋な人だった。
100歳近くだったが、ヘルパーからも
よくモテた。


健康長寿の遺伝子?
それもあるだろう。
だけど、モテる男は概して長生きだ。

そういえば「モテる」って不思議だ。
周囲を健康や幸せにするのかもしれない。

よし!
堂々と「モテ」を追求しよう。

死ぬまで生きる

岡田さんは膵癌と診断された。
診断時には、手術不能だった。

岡田さんは一年前、心筋梗塞になり、

大きな病院で入退院を繰り返した。

入院中は診断できなかったのだ。
心筋梗塞で入院していたからだ。
こういう「盲点」は発生し得る。

専門が細分化され過ぎているのだ。

退院後、異常に血糖値が上昇し、

黄疸も出て初めて見つかった。

年齢もあり、緩和ケアを勧められた。

本人と家族は化学療法を希望した。

病状の進行と副作用で食べられない。

往診依頼となった。

久々に会った岡田さん。

再会を泣いて喜んでくれた。

「えらいスリムになったね」
「食べられないんですよ」
「おかげで糖尿と血圧治ったね。

膵癌と合わせて2勝1敗やね」

そこに妻が現れた。
「お粥も食べないんですよ」
「じゃあ鰻(うなぎ)にすれば?」
妻は目を丸くした。
岡田さんは、

「鰻なら食べたいかも!」

こういうことはよくある。
鰻のタレはよく出来ている。
とにかくタレでご飯が食えれば、

上出来だ。

「お茶でもどうぞ」

奥さんに缶コーヒーを手渡された。

「微糖」と書かれてある。

「ぼく糖尿じゃないんで、糖入りで
いいんだけど」
岡田さんは大笑いしていた。

今日初めての満面の笑みだった。

神棚、仏壇、ご先祖様の写真。

名言、格言さまざま貼ってある。

「みんなに守られているんで」
岡田さんは言った。
「一番ご利益(りやく)あるのが来たね」

図々しく主治医は言った。

「トイレ美術館も見ていって下さい」
トイレにも名言格言豪華絢爛だった。

見覚えのある字があった。

「うす味にしたお陰で、素材の味が

よくわかり、新たな喜びを得た」

外来で書いて手渡した口ぐせだ。

毎日トイレで呟いてくれてたんだ…

もう塩分はいくら摂ってもいい。
剥がした。
「次回もっとええの書いてくるよ」

岡田さんはニッコリしていた。

玄関で岡田さんの声が聞こえた。

「せんせ~い!」
さっきと全然違う、よく通る声!
「パソコン忘れてるよ~!」
奥さんは再度目を丸くしていた。

「こんな声いつ以来かしら…」

家族は「治す」を選んだのだ。
あとはやるだけだ。

がん!?ガーン!

「5年生存率は44%です、だって。
あっさり言うのねえ、今は…」

原口さんは70歳になったばかり。
「揚げ物」大好き女子だ。
酒とタバコも止められない。
当院には、高血圧と高脂血症。
一応グッドコントロールだ。

GW中にお腹の不調で入院した。
紹介先では「胃腸炎」との診断。
食べ過ぎが原因と説明された…
この際、しっかり調べてもらって。
そう指示した。
なんやかんや検査をした。
結果、胆管がんが見つかった。
先日入院先から報告書がきた。
「あっちゃ~、マジか…」
原口さんは不定愁訴が多い心配性だ。

この病名を受け入れ、耐えられるか?

先日原口さんが久々に来院した。

杞憂だった。
開き直るタイプだった。
文字通り「腹を括って」いた。
スッキリした表情だった。

原口さんは冒頭の言葉を発した。

別件で見つかったラッキーなケース。

外科医からはそう説明されたそうだ。
別件かどうか厳密にはわからない。

人体はつながっているからだ。

手術日程もすんなり決まった。
経験豊富な名医が執刀することになった。
胆道系がんは特に「術者」が重要だ。
執刀数が多いほど信頼できる。
原口さんは非常に幸運だ。

5生率は、あくまで「現時点」での話だ。
5年前の5生率はもっと低い。
10年前なら絶望的な数字だ。
かつてがんは不治の病だったからだ。
がんが治る時代になりつつある。
医療は秒単位で進化している。
がん治療の未来は明るい。
原口さんの未来は明るい。
現段階で44%ということは、
実質五分五分以上の確率だ。

そんな話をした。

「タバコは?」
「さすがに止めたわよ」
「酒は?」
「飲む気しないわよ」
「OK!完治したら祝杯しましょ」

一緒に酒を止めてあげることにした。
5年後解禁、あっという間だ。