真のツッコミになるために


大野さんのお姉さんは認知症だ。
しっかり者のお姉さんだったらしい。
もうすぐ自分の顔も忘れるのでは?
大野さんの顔は寂しげだ。

自分に置き換えてみる。
自分の妹が?自分の弟が?
まだなかなか臨場感を持てない。

「おいくつなんですか?」
「88歳なのよ」
「死の恐怖も忘れてるかもね。
それは幸運ですよ」


「旦那の顔も忘れることが多いそうよ」
「出会った頃の新鮮さが保てる!
毎日初恋じゃないですか!」


近い将来認知症患者は800万人まで
増えると試算されている。
ツッコミも最低800万人必要だ!
医者は30万人しかいない。
全然足りないではないか!

悲劇として生きるか?
喜劇として生きるか?

「記憶」は残らないかもしれない。
しかし「気分」は残る。
気分を大切に生きると決めたら
毎日リセットできる認知症も
捨てたもんじゃない。


認知症になろうと、介護する側になろうと
一回こっきりの人生。
残された人生を全うするしかない。

認知症にならない方法?
そんなことに執心するより、
いつもいい気分でいられる工夫を!

親の介護のこと


「子供に迷惑かけないように」
下町の高齢者はみなそう言う。
黒澤さん(79歳女性)もその一人。
79歳には見えない元気さだ。

10年前に前医から引き継いだ。
「オーマイガーっ!」
だった。
糖尿に高血圧に不整脈…
どれも超バッドコントロール。

主治医に恵まれた(黒澤さんが
そう言っている…)。
両方の両親の介護に全力を尽くした。
子育てと仕事をしながら。


その苦労の記憶ゆえ同じ思いを
子供にさせたくない。

黒澤さんに言った。
「苦労かけた方がいいんじゃない?」
「なんでですか?」
「周りの評価が上がりますよ、子供の」


親の面倒をしっかり看て立派だった。
町内の人はみな黒澤さんを尊敬している。
その「信用スコア」はカネでは買えない。
黒澤さんが生き延びるに当たり、信用は
有形無形に変化している。


迷惑?
親は迷惑な存在か?
もし、親を迷惑だと思ったなら、
その人の将来は約束されるだろう。

人は「過去」を信用し、
「未来」を信頼するようだ。

迷惑な親を持つ人を誰も信頼しない。

良い親だった?悪い親だった?
関係ない。
子供次第で定義は変わる。
迷惑な親を持つ子供の信用スコアは
マイナスに決まっている。

親を介護するのは先人の「知恵」だ。
子供が生き延びるための。
だから親は図々しくいればいい。


子供がいない人?
それは幸いだ。
周囲や主治医との関係性を密にする。
そのチャンスが増える!

ワイルドで行こう、はしんどい

浦田さんは97歳女性。
ほぼ寝たきりで10年経過している。
人生通してほぼ薬を飲んでいない。
現在もたまに浣腸する程度。

頭脳は、とてもしっかりしている。
そっくりな娘さんの献身的な介護と
執着しない性格が良い。

定期往診で訪問した。
「ご機嫌いかがですか?」
「衰えました」
「衰えではなく、進化かもよ」
「進化ですか?」
「大昔なら、真っ先に猛獣に
食われたでしょ。
世の中が進化したから
寝たきりでも生きられる」
「先生、ものは考えようねえ」

似たもの母娘に感心されてしまった。
ほんのジョークのつもりなのに…

言葉を発してから考えてみた。
保護する対象が増えるということは
たしかに「文明の進化」だ。
他者を守れる余裕があるのだから。

自分が生き延びることだけに
必死にならなくていい。
それは絶対に幸せなことなのだ。

社会保障費を削減せよ!
それが当然とされる空気がある。

思考停止になっていないか?

何でも自己責任、自己負担という
野生時代の到来。
現代の野生は「食われておしまい」
ではないからややこしいんだけど。