ワイルドで行こう、はしんどい

浦田さんは97歳女性。
ほぼ寝たきりで10年経過している。
人生通してほぼ薬を飲んでいない。
現在もたまに浣腸する程度。

頭脳は、とてもしっかりしている。
そっくりな娘さんの献身的な介護と
執着しない性格が良い。

定期往診で訪問した。
「ご機嫌いかがですか?」
「衰えました」
「衰えではなく、進化かもよ」
「進化ですか?」
「大昔なら、真っ先に猛獣に
食われたでしょ。
世の中が進化したから
寝たきりでも生きられる」
「先生、ものは考えようねえ」

似たもの母娘に感心されてしまった。
ほんのジョークのつもりなのに…

言葉を発してから考えてみた。
保護する対象が増えるということは
たしかに「文明の進化」だ。
他者を守れる余裕があるのだから。

自分が生き延びることだけに
必死にならなくていい。
それは絶対に幸せなことなのだ。

社会保障費を削減せよ!
それが当然とされる空気がある。

思考停止になっていないか?

何でも自己責任、自己負担という
野生時代の到来。
現代の野生は「食われておしまい」
ではないからややこしいんだけど。

あなたの役目は何ですか?

早い話
社会にとっての自分の役目とは?
ということだ。

牛島さんは90歳男性。
同い年の妻の介護をしている。

たまに外来受診するが、
いつも背筋がピンと伸びている。

今日もニコニコしながら
「あのおじいさんよりはまだ元気かな」
牛島さんが指差した患者さんは
牛島さんより10歳年下だった。

昨年数十年努めた町会長を退いた。
地域貢献という役目を果たしてきた。
「燃え尽き症候群」を少し心配した。

「お元気ですか?」
訊いた。
「残りの人生の間に、戦争体験を
まとめたいと思ってます」
牛島さんは強い眼力でそう答えた。

世界、いや宇宙にとって大切な役目だ。
「手伝わせて下さい」
思わず言ってしまった。

常に自分の役目(機能)を理解する。
そういう人は健全だ。

つなぐのは血?点滴?

「先生、点滴してくれない?」

立石さん(81歳女性)は頭痛で来院した。
めまいで行う点滴で味をしめた。
頭痛ごときで点滴してられない。
「だめ」

3年前に夫を亡くした立石さん。
しばらく空気の抜けた風船状態だった。
ずっと会話も上の空。

最近ようやく冗談も通じるようになった。

立石さんは夫の姉と二人で暮らしている。
「イジワルな義姉」らしい。

外来ではずっと愚痴だらけだった。

立石さんは20代で寿司屋に嫁いだ。
家には義父母、義姉、義弟がいた。
義弟は後妻の連れ子だった。
戦中・戦後ではよくある話だ。

今の20代女子なら嫁ぐのを拒むだろう。

立石さんは寿司屋を手伝い、介護もした。
夫亡きあと、義姉と二人になった。
血の繋がらない姉との生活が始まる。
悲しみ、不安、不満、混在しただろう。

うつ状態になるのも理解できる。

立石さんが人生で最も長く過ごす相手。

それが義姉なのだから!

一緒に暮らし、今年60年目に突入。

夫婦なら「ダイヤモンド婚」だ!

立石さんは不定愁訴が相変わらず多い。
しかし、最近少し変化が出てきた。
「義姉が診療所行って来いだって」
いつもと風向きも表情も違う。
頭痛でもめまいでも何となく明るい。
なるほど!
義姉との関係性が変化したのだ!
そういえば最近悪口も少ない。

人間には「情」が存在する。
真の「家族」になったのかもしれない。
血のつながりがないだけの話だ。
訊いてみた。
「義姉さん死んだら泣くでしょ?」
「そりゃそうよ」
「OK!点滴したげる」
適応外だが、点滴してあげることにした。