ぐっすり眠りたい

「眠りが浅いんです」
という石川さんは85歳男性。

不眠症は大きく二種類に大別される。
寝入ることができない『入眠障害』。
途中で起きてしまう『途中覚醒』。


ときに
「眠る資格なし」
と不眠症認定に厳しい主治医なので、
患者さんは色んな訴え方をする。

「浅い?測ったんか?」
と言いたい気持ちをグッと堪え、
話をよく聴いてあげる。

石川さんは
「夢をよく見るんですよ」
とのこと。
「浅い眠り」の根拠らしい…

「藤子不二雄Aは夢の内容を
せっせと漫画に描くそうです。
石川さんと同い年ですよ」

と目くらましのような逸話を
話してお茶を濁す。

石川んさんと藤子不二雄Aが
同い年であることを知っている
自分が誇らしい。

石川さん宅には小鳥が何羽もいる。
一部屋丸ごと使って飼育している。
一度拝見したが圧巻だった。
ご自身が世話をしている。
小鳥たちは石川さんの生きがいだ。

「そういえば今朝の地震大きかったけど、
小鳥たち騒いだんじゃない?」


震度4の地震があった日だ。
うちのビルもかなり揺れた。

「えっ、地震あったんですか?」

気づかんかったんかい!


問診は大切だ、というお話。

やってもうたあ

「もういつ死んでもいい」
相変わらず外来でよく耳にする。

なら何で医者に来ているの?
その矛盾は解決されないまま。
人間とは理不尽な存在だ。

庄田さん(76歳女性)もその一人。
高血圧と軽い不眠症。

「色々やった方が良いですよ。
悔いを残さないように」
「もう十分やりました」
取り付く島がない…

そんなことないでしょ。
読んでない本もあるでしょ?
行ってないところは?
会いたい人もいるのでは?

いちいち首を振る。

イライラしてきて言った。

「教えたら?それだけ経験が
あるのなら、教えましょうよ。
先人の仕事ですよ!」

庄田さんはこっちを見つめた。
意味ありげな眼差しだ。

「庄田さん何の仕事してたの?」
「まあいいじゃないですか」
「気になるなあ。夜のお仕事?」
最もなさそうな想像を伝えた。

「違う。教師をしてたの」
「えっ?どこの誰を?」
「高校男子の国語の教師」

人は見かけによらない。
およそ50年前から定年前まで
男子高生を教えていたのだ。
しかも、国語を。
(にしては会話が噛み合わないが…)

時代も今とは異なる。
女だてら、多感な男子高生を教える
のは大変だっただろう。
実際、女性教師はまれだったそうだ。

男子校出身だからよくわかる。
自分らの担任たちとまさに同世代だ。
担任が国語の先生だったいう話で
盛り上がった。

庄司さんへの見る目が変わったのは
言うまでもない。

患者さんはほとんどが人生の先輩。
当然、意外な経歴の持ち主もいる。

釈迦に説法。
よくやってしまう。
気をつけよう。

ズバリ言うわよ!

「なんか元気が出ないんです」
83歳独居の柄崎文子さん。
近隣の人に支えられるように来院。

色々調べたが基本ヘルシーだ。
うつの初期かもしれない。
食欲もなく、当初体重は減り続けた。
「困ったら来て」

本当に毎週来院している…

初診から3か月経った。
先月頃から改善の兆しが見えた。
食欲も出てきた。
服装のお洒落度が増している。
「それ、好きな色やわあ」
よく見ると顔も非常に綺麗だ。
「美人はややこしいんですよ」

差別的にイジりもした。

体重も増えてきて元気になった。
と思っている矢先。
「何かカッタルイんです」

とこれまた典型的ではない訴え…

「眠れてる?」
「はい」
「寝てるときはカッタルくないのね?」
「はい」
「今は?」
「今は大丈夫です」
「カッタルイの忘れてたんでしょ?」
「はい」
「ヒマが原因。忙しくして下さい。

死ぬとき後悔しないように」

寝てるときは忘れる。
症状を忘れている瞬間がある。

忘れられるレベルの症状ということだ。
その程度でガタガタ言わない。

いつもの冷たい助言だ。

「先生は評判いいから」
取ってつけたようなホメ殺しをされた。
「それならもっと評判上げて下さい。
柄崎さんが元気になって愚痴がなくなる。
それは診療所のおかげと吹聴してよ」
と言いながら気づいた。

手強い患者さんこそチャンスだ!

診療を楽しもう!