親の介護のこと


「子供に迷惑かけないように」
下町の高齢者はみなそう言う。
黒澤さん(79歳女性)もその一人。
79歳には見えない元気さだ。

10年前に前医から引き継いだ。
「オーマイガーっ!」
だった。
糖尿に高血圧に不整脈…
どれも超バッドコントロール。

主治医に恵まれた(黒澤さんが
そう言っている…)。
両方の両親の介護に全力を尽くした。
子育てと仕事をしながら。


その苦労の記憶ゆえ同じ思いを
子供にさせたくない。

黒澤さんに言った。
「苦労かけた方がいいんじゃない?」
「なんでですか?」
「周りの評価が上がりますよ、子供の」


親の面倒をしっかり看て立派だった。
町内の人はみな黒澤さんを尊敬している。
その「信用スコア」はカネでは買えない。
黒澤さんが生き延びるに当たり、信用は
有形無形に変化している。


迷惑?
親は迷惑な存在か?
もし、親を迷惑だと思ったなら、
その人の将来は約束されるだろう。

人は「過去」を信用し、
「未来」を信頼するようだ。

迷惑な親を持つ人を誰も信頼しない。

良い親だった?悪い親だった?
関係ない。
子供次第で定義は変わる。
迷惑な親を持つ子供の信用スコアは
マイナスに決まっている。

親を介護するのは先人の「知恵」だ。
子供が生き延びるための。
だから親は図々しくいればいい。


子供がいない人?
それは幸いだ。
周囲や主治医との関係性を密にする。
そのチャンスが増える!

病人の定義

「持病のある高齢者だけでしょ、
心配しないといけないのは?」

岩坂さんは、話題の新型ウイルスに
触れ、そう言った。

米屋を経営している岩坂さんは
75歳の男性だ。

お正月は、他では絶対に食べられない
餅を用意して孫たちを迎える。
孫もそれを楽しみにしている。

糖尿病でインスリン治療の岩坂さん。
客観的には、しっかり
「持病持ちの高齢者」
なのだが…
ご本人の気持ちは現役バリバリだ。

下町の高齢者は自営業が多い。
生涯現役という人も少なくない。
だから気持ちが若い。

「ホントに病気の人多いわよねえ。
どこも悪くないのが申し訳ないわ」

という高橋さんは生活習慣病の宝庫だ。
では何しに診療所に来ているのか?
雑談だけが目的のつもりなのか?

自分を「病気」と思わない。
自分を「高齢者」と思わない。
「自分は死ぬまで健康だった」
と最期を迎える。


良いことなのだろう…

油モンの魅力

コレステロールが下がった小宮さん。
76歳という年齢だが、
無類の「油モン」好きだ。

どこそこのトンカツが、天ぷらが…
語り出すと止まらない。
臨場感ある語りに口の中が
唾液で満たされる。

お腹の音が鳴り、正気に戻る。
「何の話してるんですか!」
叱っても、小宮さんはニヤニヤ。

油モンばっかり食べる小宮さん。
胸焼けしながら食っている。
当然コレステロールは高くなる。
狭心症や心筋梗塞のリスクになる。

よく効く薬はあるが、足が攣る、
肝機能障害などの副作用がある。

テニスをする小宮さんは足が
攣りやすくなっている。
できれば薬を止めたいところだ。
油モン好きが「ネック」だ。

この年齢の人の好物を止めさせる
了見は持ち合わせていない。
高い店限定で油モン許可を出した。

高い店が良いとは限らないが、
下町で生き残る店は割と
値段に比例する。

回数を減らして堪能することに。
高い店は油と素材が良い。
「胸焼けしない」を基準にした。

結果、週一回の油モンに収まった。
(年齢にしては十分すぎるが…)

するとコレステロールは
みるみる改善していった。
小宮さんは他に大きな
リスクや合併症がない。
薬は卒業となった。

でも、しょっちゅう外来に来る。
新規開拓した店を教えてくれる。
で、最後にはお約束
「何の話してるんですか!」
叱られた小宮さんはニヤニヤし、
お開きとなる。