若さの秘薬

「それは更年期症候群です」
主治医は告知した。
尾関さん(79歳女性)に…

尾関さんは最近不調だ。
何となく頭が重いし元気が出ない。
実は同じ症状の人がたくさんいる。
低気圧が主因だ。
オホーツク海高気圧と太平洋高気圧。

うまく釣り合っている。

女性の方が比較的敏感だ。
頭痛、めまい、肩こり…
更年期症候群も似たような症状だ。

自律神経による不定愁訴の嵐だ。

「私忙しかったから更年期なかったのよ」
「でしょ。それが答えです」
要はヒマなのだ。
ヒマだと「不調」を探してしまう。
「忙しい」とは矢印が他人に向かう。

ヒマだと矢印は自分に向かう。

7月中旬にもなってこんなに寒い。
雨もしっかり降っている。
不作で野菜の値段は上がっている。
人間も野菜の一種だ。

調子が悪いと医療費その他で高くつく。

不調の尾関さんはポツリと言った。
「来月孫と旅行に行くことになったの」
「どこへ?」
「トルコ」
「すごい!孫は何歳?」
「大学生の孫二人と行くのよ」
「イイ関係!普通ありえないよ」

「おばあちゃん、おカネ出して、だって」

最近の孫はしっかりしている。
おカネは尾関さんがもつ。
荷物は孫がもつ、らしい。

「調子悪いのに大丈夫かしら?」
なるほど!

旅行に照準を合わしてるのだ!

「大丈夫に決まっている!」
本日2度目の告知をしてあげた。
孫と旅行、それ以上のクスリがあるか?
きっと若返って帰って来ることだろう。
楽しみだ。

薔薇色の認知症

「ちゃんと3回食べてます」
すると付き添いの妻が
「あ~あ、食べるになっちゃった…」
と嘆いた。

「おクスリ飲めていますか?」

の質問に対するやりとりだ。

岩瀬さん(78歳男性)は認知症だ。
生来穏やかな性格だ。
認知症になってからも
「な~んもわからない。申し訳なくて」

と哀しい顔をして自分を責める。

岩瀬さんは金属に和柄を彫る職人だ。
まだ少し仕事もしている。
精度は落ちている。
が、人間関係で仕事がある。
妻もありがたいと言っている。

いつまでできるかしら、とも…

話は替わる。
以前一緒に研究をしていたイギリス人。
彼も
「クスリ食べた方がいいかな?」
服薬を「食べる」と表現した。
おそらく
take a medicine 
take lunch、take dinner
“take” に「ご飯を食べる」がある。
だからそういう間違いをしたと思われる。
ちなみに日本語の「飲む」は “drink” と

訳される。

日本語の「飲む」は「酒を飲む」「鯨飲」
「息を飲む」「雰囲気にのまれる」など
汎用性が高い。
「飲み込みの悪いヤツだ」とか
「清濁併せ吞む」とか「妥協案をのむ」
観念的な使い方もするようだ。
「隠す」という意味もある。

例:あのチンピラ、ドスのんでやがる!

英語の “drink” は液体にしか使わない。
固形物の場合 “swallow” になる。
だからクスリを飲む場合、
内服の意味では “take a medicine”

動作としては “swallow a pill” となる 。

岩瀬さんに話を戻す。
認知症になると脳が委縮する。
残された機能をフル活用するしかない。
岩瀬さんの「英語脳」が目覚めたのか?
懐に英語脳を「のんで」いたのだ!

クスリは飲むより食べる方が効きそうだ!

そう考えると少し楽しい。