熟年カップル誕生?

卓球部が盛り上がっている。
患者さんのサークル活動だ。
他にも、朗読部、ダンス部、
写真部…色々ある。

卓球のあとはカラオケ。
体育系と文化系でバランスもいい。

84歳の田無さんは卓球は初めて。
それでも上達が著しいそうだ。

田無さんは社交ダンスをしていた。
ダンスも高齢になってから始めた。
ダンスは覚えることが多い。
できなかったことができるようになる
体験をしているのは大きい。

新しいことを始めるには勇気が必要だ。
自分で「無理」と決めつける。
新しいことを始められない理由の
大半は先入観だ。

つくづく感じる。
成功体験は重要だ。

75歳の荒川さんは昨年妻を亡くした。
69歳の横井さんは昨年夫を亡くした。
卓球を始めて2人とも明るくなった。
検査データも劇的に改善している。

(自称)カップリングに定評のある
主治医は二人を焚き付けている。
「一緒になれば?」
二人ともまんざらでもない様子だ。

先日、荒川さんが風邪をこじらせた。
横井さんは一生懸命看病したそうだ。
荒川さんはうつ気味な横井さんを
いつも笑わせている。

いいと思う。
新しい関係性を始めるのも
間違いなく素晴らしい。
相手がいなければ一人にさえ
なれないのだから。

つなぐのは血?点滴?

「先生、点滴してくれない?」

立石さん(81歳女性)は頭痛で来院した。
めまいで行う点滴で味をしめた。
頭痛ごときで点滴してられない。
「だめ」

3年前に夫を亡くした立石さん。
しばらく空気の抜けた風船状態だった。
ずっと会話も上の空。

最近ようやく冗談も通じるようになった。

立石さんは夫の姉と二人で暮らしている。
「イジワルな義姉」らしい。

外来ではずっと愚痴だらけだった。

立石さんは20代で寿司屋に嫁いだ。
家には義父母、義姉、義弟がいた。
義弟は後妻の連れ子だった。
戦中・戦後ではよくある話だ。

今の20代女子なら嫁ぐのを拒むだろう。

立石さんは寿司屋を手伝い、介護もした。
夫亡きあと、義姉と二人になった。
血の繋がらない姉との生活が始まる。
悲しみ、不安、不満、混在しただろう。

うつ状態になるのも理解できる。

立石さんが人生で最も長く過ごす相手。

それが義姉なのだから!

一緒に暮らし、今年60年目に突入。

夫婦なら「ダイヤモンド婚」だ!

立石さんは不定愁訴が相変わらず多い。
しかし、最近少し変化が出てきた。
「義姉が診療所行って来いだって」
いつもと風向きも表情も違う。
頭痛でもめまいでも何となく明るい。
なるほど!
義姉との関係性が変化したのだ!
そういえば最近悪口も少ない。

人間には「情」が存在する。
真の「家族」になったのかもしれない。
血のつながりがないだけの話だ。
訊いてみた。
「義姉さん死んだら泣くでしょ?」
「そりゃそうよ」
「OK!点滴したげる」
適応外だが、点滴してあげることにした。

恐怖に打ち克つ方法

早い話が
取り扱えない言葉は捨ててしまえ!
ということだ。

佐藤さん(72歳)はうつ病だ。
最近状態はどんどん改善している。
兄弟で経営していた会社を昨年辞めた。
追い出される形での退社だそうだ。
仕事を辞めてうつ病を発症した。
当院には糖尿病でかかっている。
うつ病が悪くなると血糖値が上がる。

心と身体はつながっていると実感する。

「話をして相手を困らせるのが怖い」
佐藤さんはそう言った。
精神科的にはうつ病への対処として
「励ましは禁物」など色々ある。
こっちは内科医。

我流だが、正直に医療をするしかない。

「”怖い”は幻想よ」
「はあ…幻想?」
「ダイレクトな感情ではないでしょう?」
たとえば、嬉しい、悲しい、楽しいなど。
ある出来事に対して生じた感情だ。
では「怖い」や「恐怖」は?
起こりそうな出来事への感情だ。
自分の「期待」であり「幻想」だ。
6年前にキューバに行ったとき。
3500m上空からスカイダイビングをした。
飛ぶ前は「怖い」だが、スリルを楽しんだ。

期待以上のスリルだった。

世間で「怖い」とされているもの。
ジェットコースターやお化け屋敷、
ホラー映画はすべて娯楽だ。
「怖い」からこそ、みなやりたがる。
スリルを楽しむ未来が「怖い」なのだ。

だから「怖い」は娯楽への期待なのだ。

スリルが嫌いなら体験しなければいい。
それは「イヤ」という感情だ。

繰り返す。
「怖い」は期待にすぎない。
期待するのは、ほかならぬ自分。
幻想を作り出すのも自分。
恐怖に打ち克つ方法?

「ま・ぼ・ろ・し」だと知ることだ。

「自分が情けない」
とも佐藤さんは言った。
「情けない」はあってもいい。
「で、何?」だ。
理想の自分ではないから情けないのだ。

「情けなくない」自分になればいい。

うつのど真ん中ならこんな話は難しい。
佐藤さんは1歳の孫に救われている。
可愛くて仕方がないらしい。

赤ちゃんにうつ病はいない。
赤ちゃんは常に体験先にありきだ。
体験をして、感情が生じる。
その感情を言葉にできない。
言葉化できない感情に満たされている。
だから赤ちゃんのそばにいると

心地いいのかもしれない。

世界には邪魔な言葉が多い。

取り扱えない言葉は捨ててしまえ!
今日から「怖い」は禁止だ。

「絶対死なんといて下さいよ。
ボクのために生きてよ、佐藤さん。
死なれたら一生トラウマになるで」

最後にしっかり怖がらせておいた。