男やもめと、未亡人

多くの高齢患者さんと接してるおかげで、貴重な経験をする機会も多い。
そのうちの一つが、未亡人と男やもめの カップリングだ。何組かカップルを誕生させている。
入籍するところまではいかないが、半同棲状態ぐらいはザラである。
下町は口が悪い。近所の噂も気になる。 周囲の目を気にしてこそこそ付き合っているケースも少なくない。
三角関係もたまにはあるが、「愛憎入り交じる泥沼」は幸い経験していない。

どちらかに先立たれることも当然ある。 ある男性患者:清水さん(仮名、84歳)は肺がんを患っていた。お目当ての女性:天野さん(仮名、79歳)もうちの患者さん。天野さんも大病しているが、カラオケ、ダンス大会に出場する活動的な、小柄でキュートな女性だ。
晴れて付き合うことになった清水さんは医師も驚くほど回復した。
某病院で予命宣告(なんと3ヶ月!!)されたが、のらりくらり3年近くもった。

しかし最後の日は訪れる。
天野さんが清水さんの自宅を訪問したときに清水さんは死んでいた。第一発見者だったから色々大変だった。

先日、天野さんが外来で、こう言っていた。
「死に水取らされちゃったよ。実の娘なんて本当薄情なもんよ。淡々と全部片づけていったわ。ひとつだけ悔しいことがあるんだよね。毎日晩酌してた時に使ってた可愛いお猪口。ちょうだい、って言ったら、俺が死んだら形見にやるよって言ってたのに。娘がきっと全部燃やしちゃっただろうなあ。欲しかったなあ、あのお猪口」
「欲しかったなあのお猪口」という台詞が今も頭の中で、残響している。

原田文植