文通

往診患者の川上さん(仮名、91歳女性)は一人暮らしだ。
一昨年膝の手術をしたが芳しくない。
もともと社交的で色々なコミュニティに参加していた人だが、膝の痛みが原因でほとんど外出しなくなった。

川上さんは最近認知症が進んでいる。
自分の年齢はもちろん、日付やら何やら色々忘れている。
「わたし何歳だったっけ?」
と訊いてくるので
「45歳でいいんじゃない」
と応える。
それには大笑いしている。
興味を探そうと「何歳で結婚したか」とか「何歳で出産したか」とか訊くのだが、全部思い出せない。
「膝が痛いことだけが悩みだわ」
さすがにそれだけは忘れられないようだ。

そんな川上さんの至福の時間は、亡き夫の「回想録」を読むときだ。
地域で非常に人望があった、皆さんが口を揃えて言う。
川上さんの自慢の夫だ。
「書く」という作業を怠らなかった人らしく、残したものが膨大な量になっている。
川上さんは夫の膨大な作品(?)をすぐに手が届くところに置いている。
「コックピットみたいですね」
からかい半分に川上さんに言う。正直、地震時のリスクなどを考えると、もう少し片づけてほしいところだ。

結婚する前に交わしていた文通も全て残しているそうだ。
毎晩それを読んで、亡き夫と対話するそうだ。
「怪我の功名ですね!膝が痛くて出歩けないぶん、だんなさんといっぱい話せるじゃない」
と言ったら、これまた大笑いしていた。

亡くなった人のイメージはどんどん薄れていく。
そして記憶は改ざんされていく。
川上さんは文章の中の夫と「夜な夜な」逢瀬を重ねている。
ときに45歳になったり、22歳になったりしながら。
その間は自分の身体の不調を忘れている…

生きてきた証として「自分の頭の中」を書き残す。
そんな形で残された妻を助けている。
あっぱれ!
川上さんは本当に幸せな顔をしている。

 

よろず相談所 One Love
日本メディカルコーチング研究所
所長: 原田文植

 

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