大罪ではないけれど・・・

小川さん(仮名、90歳、男)は
評判の腕の良い提灯職人だった。
認知症を発症してから
仕事の質が下がった。
「もう注文しない」
常連さんから三行半をつきつけられた。

息子が後を継ぐことになった。
仕事に対する世間の評価はシビアだ。
「肉筆」まで引き継ぐことは難しい。

父親とはかなりの確執があった。
父親に関する愚痴を山ほど聞かされた。
しかし、懸命に父親の介護をした。
空手をやっていたので力はある。
抱きかかえて外来へ連れてきたものだ。
年老いは母親も入退院を繰り返している。
息子ひとりで二人の介護は限界がある。
結局、小川さんは施設に入所となった。

その母親が先週自殺を図った。
息子が買い物に行っている隙に。
袋をかぶって首を吊っていた。
救急隊の蘇生で息を吹き返しはした。
しかし、意識はいまだに戻らないまま。
医師の説明だと植物状態だということだ。

母親は気丈な人だったらしい。
「自殺ほどの大罪はない」
と言っていた。でも反面、
「早く死にたい」が口ぐせだった。
息子を慮る気持ちもあったのだろう。

本日、定期受診で息子が来院した。
その際、母親の件の報告を受けた。
絶句した。ショックだった。
正直、かける言葉が見当たらなかった。
息子の思いや悲しみをひたすら聴いた。
「誰も真似できないですよ。
ご両親も絶対に感謝してますよ」
その言葉が限界だった。

息子さんは言った。
「親だからね。仕方ないよ。
それにオレ出来損ないだし」

その言葉の中に父親との確執を垣間見た。
呪縛の中で堪えてきたんだろうな。

患者である息子の今後も心配だ。
「何でも言うてね。些細なことでも
何かできると思うから」
そう声をかけるのが精一杯だった。

生きるのは決して楽ではない。
光のない将来を止めたくなることもある。
それでも敢えて、言いたい。
少しだけ残しておいてほしい。

残された人を思いやる余地を。

 

よろず相談所 One Love
日本メディカルコーチング研究所
所長: 原田文植