「物忘れの薬か注射ない?」
真木さん(92歳)は訊いてきた。
「あるよ。ただし非合法やけどね。
”ヒロポン”てゆうクスリ」
もちろん真木さんに叱られる…
「早くお迎え来ないかな」
「早くあの子の所に行きたい」
が真木さんの口ぐせだ。
6年前に娘を亡くした。
それ以来ずっとこぼしている。
独居になったがなかなかシブトイ。
「向こうでも世話させられるの
勘弁願いたいのとちゃいます?」
真木さんはムスッとする。
過去のことはよく思い出す。
それは高齢者に共通する。
だから過去のことばっかり考える。
だから「今」のことを憶えられないのだ。
過去のことを幾度となく思い出す。
そしてそれを「改ざん」する。
都合の良いように改ざんする人もいる。
不利になるように改ざんする人もいる。
その改ざん方法を「性格」と呼ぶのでは?
色々説明がつく気がする。
真木さんは最強に愚痴が多い。
特に亡夫の悪口は止まらない。
不器量な自分のことも散々愚痴る。
だから親に可愛がられなかったと。
まあとにかく真木さんはシブトイ。
まだ色々憶えていたいのだから、
迎えに来て、という言葉とは矛盾する。
大体、人間は矛盾だらけだ。
「次回若返り注射ね。ちょっと高いけど」
「いくら?」
「800円くらい。保険効かないから」
「安いじゃないの!若返れるなら!」
全然、生きる気満々やな…
日本メディカルコーチング研究所
所長:原田文植