「ちぎれるかと思うほど痛かったのよ」
松本さん(仮名、87歳、女性)は言った。
顔をしかめながら。
「ほんまあ、大変やったね。今は?」
同情を示しつつ訊ねる。
「今は痛くないです」
再現VTRをしてしまう患者と呼んでいる。
そのときの臨場感を再現してくれる。
いや、やや「大げさ」に改ざんしている。
哀願する様子はウチの子そっくりだ。
「この辛さをわかって下さい!」
それは患者さんとして当然だ。
しかし、現在痛くないのである。
再体験する必要はないはずだ。
顔をしかめると筋肉も硬直する。
他の部位が痛くなるかもしれない。
こうなるともはや「二次災害」だ。
人間は記憶を使ってモノを見ている。
記憶で合成されたフィルターを通して。
記憶の中で生きているようなものだ。
それを改ざんする能力まで持っている。
「嬉しい記憶を改ざんしてみれば?」
松本さんにそう提案した。
思い出の素敵な場所があるとする。
綺麗な花が咲き乱れている。
緑の香りに癒されている。
隣でハンサムな男性が微笑んでいる。
テーブルに豪華な食べ物が並んでいる。
鳥のさえずりが心をノックする。
天国のようだ。
過去はどんどん遠ざかるだけ。
どうせ薄まっていく記憶だ。
人に迷惑をかけるわけでもない。
とびっきりのお化粧を施してあげよう。
医師には「すっぴん」の病状報告を!
よろず相談所 One Love
日本メディカルコーチング研究所
所長: 原田文植