「まさかおばあちゃんのお母さんになるとは思わなかったわ」
とても「粋(いき)」な表現だと感じた。
そんな粋な言葉を発していた兼田さん(仮名、84歳、女性)は最近元気がない。少しうつ気味だ。
今日も「いっつもフラフラしてる。もう死んでもいいわ、って思っちゃう」
と言っていた。
「一緒に死んだげよか」
と応えると、満面の笑顔で
「まあ嬉しいこと言ってくれるわね」
何とか気持ちを切り替えられたようだ。
この程度の「抑うつ」なら大抵何とかなる。
まずは、笑わせる。次に、患者さんが一番「楽しい」と思っていることを話すように誘導する。
兼田さんの夢中は「ひ孫」だ。雑誌のモデルもしている超美形の乳児だ。
赤ちゃんの話をふると、
「そうなのよ。孫がまた可愛いアルバムを送ってくれたのよ」
兼田さんは独居だ。それほど可愛くて仕方がないひ孫だが頻繁に会えるわけではない。
孫やひ孫が来てくれたときは、確かに楽しい。しかし、帰った後の「落差」が激しい。
「祭りのあと」の空虚な孤独感はとてもよくわかる。
「ウチの子も見てよ。兼田さんとこほど美形ではないけどね」
とスマホの待ち受けを見せた。
「産まれたの!可愛いわあ。毎日楽しくてしょうがないでしょう」
写真を見ながら、笑顔で訊いてきた。
「あっ、ごめん。この子らがいるから、まだ兼田さんと一緒に死なれへんわ。ところで、ひ孫さんの写真は?」
と言ったら
「今日持ってきてないのよ。次回持ってくるわ」
と約束してくれた。
「不思議だわ。何かすっきりした」
ニコニコ診察室をあとにした。投薬もせずにめでたく診療終了。
「何とかしてくれるはず」と確信して来てくれる患者さんは大体何とかなるものだ。
日本メディカルコーチング研究所
よろず相談所 ONE LOVE
所長: 原田文植
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