冷たい雨と冷たい夫

「寒い雨の日になると思い出すのよ」

藤本さん(93歳)は悲しげに呟いた。
冬の雨の日、急に眼が見えにくくなった。
亡夫に付き添ってもらい病院へ。
あまりにも待ち時間が長かった。
待ちきれない夫は先に帰った。
優しすぎるほど優しい夫だったのに!
冷たい態度が一生忘れられない。
冷たい雨の日に絶対に思い出すそうだ。

「何年前の話ですか?」
訊いてみた。

40年間忘れられずにいるそうだ。
冷たい雨になると絶対に思い出す。
そして記憶はどんどん強化されていく。

「もう許してあげたら?
優しい夫だったでんしょ?」

そこから師長と藤本さんは二人で
「オトコの身勝手&執念深いオンナ」
談義で盛り上がっていた。
往診中に・・・

イヤな思い出なんでしょ?
わざわざ思い出す必要ないですよ。
残り時間考えたらモッタイナイですよ。

そう言って割り込むのが精一杯だった。
次の訪問宅が待っている。

記憶は改ざんできる。
どうせなら冷たい雨も楽しい思い出と
タグ付けした方がいいと思うのだが・・・

いや、待てよ。
改ざんしまくった結果かも。
本当に優しすぎる夫だったようだ。
怒ったことがない。娘も証言している。
ちょっと位、悪役にしとかないと。
折り合いつかないのかもしれない。
思い出の優しい夫は、ときに辛い。

優しい夫は天国で微笑んでいるはず。

よろず相談所 One Love
日本メディカルコーチング研究所
所長: 原田文植

★言葉は、身体のコントローラー