怒らない技術?

堀北さんは常にイライラしている。

「先生の前でしか愚痴言えないから」

絶対そんなことないはず。

ずっと夫の愚痴を言っていた。
認知症の夫は10歳年上で89歳。
堀北さんは夫とともに受診する。
認知症患者さんの加齢はときに非情だ。
別人格に変化していく。
主治医の前ではそれほどではないのだが。

本当に大変だと思うし、同情もする。
しかし、堀北さんの言葉は強烈にキツい。
「バカ亭主!」「どうしようもない!」
医者の前でも遠慮なしで連呼。
「余計に認知症が進行しますよ」
とたしなめても、聞く耳を持たない。

一度外来中に夫がムラムラしたようだ。
突然妻の腰や太ももを触り始めた。
「変なスイッチ入っちゃったかな」
こちらはのんきに微笑んでいたが、
堀北さんは恥ずかしさで気が気でない。
「止めてよ!気持ち悪い!」
と紅潮した顔でそれはそれは大変だった。

老々介護もついに限界となった。
家族会議の末、施設に入所することに。

堀北さんは、毎日通っている。
雨の日も風の日も。皆勤賞だ。

「だって行かなかったら可哀想じゃない」
と言いながらも愚痴が始まる。
標的は施設内の隣人と洗濯業者だ。
「隣部屋の入居者が夜中にうるさい
そのせいで夫が眠れない」
「隣人の家族は見舞いにも来ない。
ひどい家族だ。隣人が可哀想だ」
腹を立てているのか同情しているのか。
とにかく何でも愚痴になる。

クリーニングから下着が返ってくる。
何度「堀井」さんのパンツだったことか。
苗字の「堀」が共通している。
しょっちゅう間違われるらしい。
業者に何度指摘しても間違われる。
堀井さんも家族が滅多に来ない。
同じパンツを穿き続けることになる。
だからパンツが汚い
らしい。

てな具合で外来で散々愚痴をこぼす。
堀北さんにとってはブルースだろう。
堀北さんの顔は真剣そのものだ。
だけど、なぜか笑える。

「なにが可笑しいんですか!」
と風向きが変わる。

火の粉を払いながら、
「愛しのお父さんやからしゃあないよね」
と言うと少し頬を赤らめる。

夫は初めての人だったそうだ。

主治医は色々知っている。
知りたくもないことを…

登場人物の名前はすべて仮名です。

 

よろず相談所 One Love
日本メディカルコーチング研究所
所長: 原田文植

 

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