4年に一度じゃない。一年に二度だ。

「インフレで大変だったのよ」

吉田さん(69歳)は経済学者ではない。
インフルエンザの言い間違いだ。

今年はめずらしく夏に流行した。
ワールドカップの影響とも
推察されている。
来日した南半球の人たちが
運んできたのかもしれない。

吉田さんの息子と孫がかかった。

「よかったじゃないですか」
「全然よくないわよ」
「思い出深い夏になったじゃ
ないですか」
「よくもそんな呑気なことを!」
膝を叩かれる。

もちろん、治ったからこそ
気軽に言えるのだが…

のんべんだらりと過ごす毎日は
一瞬で過ぎ去る。
気づいたら何も残っていない。
一回きりの人生では?

夏のインフルエンザ。
一生忘れないだろう。

家族で濃密な時間を共有できる病。
それも悪くない。

次に流行るインフルの予防接種で
来院した吉田さん。
「じゃあ注射やめとこうかな」

とはならない。
やっぱりしんどいのは嫌だから。