栗山さんの妻は失語症が強い。
10年前の脳卒中の後遺症だ。
リハビリもあまり進まなかったらしい。
「周りが大変ですよ」
と嘆く栗山さん(78歳)。
栗山さんご本人も大病をしている。
15年前に心筋梗塞をやった。
心臓の血管に金属が入っている。
肺がんを切って13年経った。
「生き延びてますねえ」
「ええ、どうにかこうにかね」
いや、むしろ若返っている。
ふと思った。
(妻のおかげかも?)
妻は認知症ではない。
だから妻の脳内にイメージはある。
しかし、言葉にならない。
本人はもどかしくてイライラする。
夫は妻を慮(おもんぱか)る。
必死で読み取ろうとする。
さながらテレパシーの世界だ。
新たな能力が開発されたのでは?
オカルトになる前に止めておく。
身内が病を発症する。
日常の景色が一変する
変化した現状を受け入れるのは困難だ。
絶対に悪いことばかりではない。
使っていない脳がフル稼働する。
人生時間の厚みが増すかもしれない。
メリットも必ず存在する。
先に大病を患った夫。
妻の衝撃も相当なものだったはずだ。
妻が失語症。
夫は本気の「傾聴」をするしかない。
妻も思っているかもしれない。
失語症でよかった。
いらんこと吐かないですむ…