薔薇色の認知症

「ちゃんと3回食べてます」
すると付き添いの妻が
「あ~あ、食べるになっちゃった…」
と嘆いた。

「おクスリ飲めていますか?」

の質問に対するやりとりだ。

岩瀬さん(78歳男性)は認知症だ。
生来穏やかな性格だ。
認知症になってからも
「な~んもわからない。申し訳なくて」

と哀しい顔をして自分を責める。

岩瀬さんは金属に和柄を彫る職人だ。
まだ少し仕事もしている。
精度は落ちている。
が、人間関係で仕事がある。
妻もありがたいと言っている。

いつまでできるかしら、とも…

話は替わる。
以前一緒に研究をしていたイギリス人。
彼も
「クスリ食べた方がいいかな?」
服薬を「食べる」と表現した。
おそらく
take a medicine 
take lunch、take dinner
“take” に「ご飯を食べる」がある。
だからそういう間違いをしたと思われる。
ちなみに日本語の「飲む」は “drink” と

訳される。

日本語の「飲む」は「酒を飲む」「鯨飲」
「息を飲む」「雰囲気にのまれる」など
汎用性が高い。
「飲み込みの悪いヤツだ」とか
「清濁併せ吞む」とか「妥協案をのむ」
観念的な使い方もするようだ。
「隠す」という意味もある。

例:あのチンピラ、ドスのんでやがる!

英語の “drink” は液体にしか使わない。
固形物の場合 “swallow” になる。
だからクスリを飲む場合、
内服の意味では “take a medicine”

動作としては “swallow a pill” となる 。

岩瀬さんに話を戻す。
認知症になると脳が委縮する。
残された機能をフル活用するしかない。
岩瀬さんの「英語脳」が目覚めたのか?
懐に英語脳を「のんで」いたのだ!

クスリは飲むより食べる方が効きそうだ!

そう考えると少し楽しい。