
「絶対に治らないって言われました」
堀内さんは60歳の女性。
昨年初めに脳卒中を発症した。
右半身の麻痺が残った。
退院後、在宅診療開始となった。
蕎麦屋の女将をしている。
在宅を開始して半年ほど経過した。
「治らないんですよね」
訪問する度に堀内さんは嘆く。
週3回店に出るようになった。
看板娘だった堀内さんは、
お客さんに待望されている。
階段の上り下りはもちろん、
家の中の用事もこなしている。
ただ、右半身の麻痺は残っている。
少しずつ改善はしているのだが、
最初に言われた医師からの言葉が、
足かせになっている。
リハビリの熱量に現れる。
堀内さんの寝室にはピアノがあった。
「堀内さんピアノ弾くの?」
「いえ、私は弾きません。
娘が小さい頃弾いてたピアノです」
「ピアノ始めたら?」
とりあえず左手で和音だけでも
弾ければ、弾き語ることができる。
「歌好きでしょ?」
「大好きです。ソウル音楽が」
「趣味合いますね!僕もJBとか
アレサ大好きなんですよ」
堀内さんはディスコソウル好きだ。
てな話をしているうちに、
ピアノを習うことになった。
娘のバイオリンの先生を紹介した。
堀内さんの娘より年下だ。
片麻痺の患者さんを指導するのは
もちろん初めてだそうだ。
先生にとってもチャレンジだ。
店に出る。ピアノを始める。
「治ってるじゃん!」
「でも治らないって言われたんです」
すべての医者に告ぐ。
せめて「あくまで現在の医療では」
とか「治る可能性はある」とか
くらい言えよ!
責任を負いたくない。
全く理解できないわけではない。
でも医者の言葉は重い。
患者さんの残りの人生を
どう思っているのか?
この麻痺を何とかしてやろう!
内科医のチャレンジだ。