仮面様顔貌

93歳のパーキンソン病の患者さんがいる。
海軍にいた経験もあり、頭脳も明晰。しかし、最近少々「ガッツ」を失っている。

パーキンソン病の主症状に「安静時振戦」というのがある。
この患者さんは「なんで震えるんでしょうね?」という質問をしょっちゅう繰り返す。
病理学的説明や、疫学、予後について話しても仕方がない。
そこで次のエピソードを話すことにした。

ジャズの帝王マイルス・デイヴィスが少年時代、自分の憧れのトランペッターの真似をしてビブラートをかけて吹いていた。
音楽学校の試験でそれを実演したところ、先生に
「ビブラートをかけてはいけない。どうせ歳を取ったら震えるんだから、今から震える練習する必要ない。今はストレートに吹きなさい」
と指導されたそうだ。
マイルス本人が晩年に語っていた。音楽家として重要な経験であり、「契機」だったのだろう。

そんな話をして、「要は歳とったら皆震える、いうことです」とまとめた。
93歳の患者さんに話すエピソードとして、TPO が正しかったかどうかは正直あやしい。
実際、「何の話や?」的な不思議な表情をしていた。
ただ、その話の間も、終わってからも、患者さんの震えは止まっていた。
そして、大笑いしていた。
パーキンソン病の主症状に「仮面様顔貌(無表情)」というものがあることを忘れさせるほど…
「フォーカスをずらす」という重要なテクニックの話である。

原田文植



「ほめる」の功罪

他者から「ほめられたい」という認知欲求はよほどのひねくれ者でないかぎり持っている。
しかし「ほめられたい」という欲求が誤った方向に向かうことがある。
「カンニング」も「研究データ改ざん」もある種「ほめられたい」欲求が産み出した不正ともいえる。
「投資」に見合わない「報酬」を求めるのは卑怯でしかない。

コーチングでは「ほめる」ことにより、「自己効力感」を持たせることが原則だ。
しかし「人をみて法を説け」ともいう。
患者さんに対しても同様で、常に「ほめる」ことによって、患者さんの健康を害することにつながっては当然本末転倒である。
「段階」、「状況」、「理解力」に応じた「ほめる」の実現を心がけているつもりだ。

スタンフォード大学の心理学教授キャロル・S・ドゥエック氏が行ったおもしろい調査結果である。
思春期初期の子どもたち数百人を対象に、知能検査のかなり難しい問題を10問やらせた。

ほとんどの生徒がまずまずの成績。終わった後で、褒め言葉をかけた。
褒めるにあたっては生徒を二つのグループに分け、一方のグループではその子の「能力」を褒めた。
「まあ、8問正解よ。良く出来たわ。頭がいいのね。」といった具合。
もう一方のグループでは、その子の努力を褒めた。「まあ、8問正解よ。良く出来たわ。頑張ったのね。」といった具合である。
グループ分けをした時点では、両グループの成績はまったく等しかった。
そして、子供達に、新しい問題を見せて、新しい問題に挑戦するか、同じ問題をもう一度解くのか、どちらかを選ばせるという実験を行った。
すると二つのグループの間で、明確に差が現れた。
まず、頭の良さを褒めたグループは、新しい問題を避け、同じ問題を解こうとする傾向が強くなった。
ボロを出して自分の能力を疑われるかもしれないことは、一切やりたがらなくなった。
一方、努力を褒められた生徒達は、その9割が、新しい問題にチャレンジする方を選び、学べるチャンスを逃さなかった。

努力した過程を褒めると、子供は「努力すること」に喜びを感じるようになる
「能力」をほめられた子供は、自分に「能力」がなかったということを証明することを避ける
ということだ。

「ほめ方」が人の心の「チャレンジ精神」を阻害する可能性があるということだ。

人をほめるときは「過程」をほめるようにするのが「効く」ということだ。
自分自身に対しては?
常に「挑戦する自分」を「誇らしい」と思うクセをつけることだ。

日本メディカルコーチング研究所
所長: 原田文植

 

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野生動物はダルくないのか?

「ダルいんです」
これも外来でしばしば出くわす言葉のひとつだ。
一般的な検査を一通り行って、明らかな異常はなさそうだ。
そう説明をしても 「ダルさが抜けないんですよね」と納得してくれない。 医者泣かせな主訴の一つだ。

逆にだるくない人っているのだろうか?

何もやることがなかったらどんな人もゴロゴロしていたいのではないだろうか? 実際、野生動物は年がら年中捕食活動をしているが、飼われているペットはいつもゴロゴロしている。
きっと全ての生き物は満腹になればダルいのだ。
仕事も用事もなければみんなゴロゴロしてたいのだ。
人間は自分のことでなくても用事を作ることができる稀有な動物だ。
だから赤の他人のことを心配するし、ボランティア活動のために、自分の時間を割くこともできる。
「ダルい」という感覚に騙されてはいけない。好きで好きで仕方がない人でも会いたくないほどダルい。それぐらいでないと「ダルさ」を正当化しないようにしたい。
「動機」が「ダルさ」を消してくれるのである。

原田文植